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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)506号 判決 1956年9月25日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人代理人溝淵春次、同村田太郎、同佐藤雄太郎、同和島岩吉の上告理由第一点について。

所論は、原判決が大審院並びに最高裁判所判例に違反すると主張するから、これについて考究してみるに、まず所論引用の大審院判例(昭和三年一二月一日判決)は、選挙を無効としたのでなく、所論引用の判示に次で「……あるから、その投票数が当選者と次点者との得票の差数に及ばないときは、右の違法は選挙の結果に異動をもたらすおそれのないものというべきである」と述べ、選挙無効の主張を排斥するについての説明をしたのであつて、本件に適切とはいえない。次に所論引用の当裁判所第一小法廷判決(昭和三〇年二月一〇日)は、選挙を無効とした事案である。その事実は、投票箱を開いて投票を取り出し、他の箱に入れ、投票所外に持ち出し一人しかいない場所で数を検したというのであつて、本件の場合と違法性の程度において同日に論ずることはできない。従つて本件に適切ではない。また所論引用の当裁判所第二小法廷判決(昭和二三年一月一七日)は、当時の地方自治法による知事選挙の決選投票に関する事案であつて、結論として選挙の結果に影響を及ぼすおそれがある場合に当らないと判断したのであつて、これまた本件に適切とはいえない。さらに所論引用の当裁判所第二小法廷判決(昭和二七年一二月五日)は、候補者の届出た開票立会人の立会を拒否し、選挙長が立会人を選任して開票したことによつて選挙を無効とした事案であり、これまた本件に適切であるとはいえない。

なお所論の指摘する、原判決の確定した訴外大橋不死が恣に投票箱を開いた事実が、選挙の公正を維持する上から厳に攻めらるべき違法行為であることは、原判決も強調するところであるが、ただ原審は、証拠調によつて十分な審理を遂げた上、本件においては、投票箱を開いた非違はあるけれども、その目的、態様、情況を看てくると、不正行為が行われたことなきはもちろん、それを行う可能性もうかがわれず、選挙の公正に疑惑を招く事態でもなかつたとし、結論として、右投票箱を開けた事をもつて本件選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあつたものとなすことはできないと判断したのであつて、この判断は相当であるといわなければならない。従つて所論のように、投票箱を開けたことだけで、本件選挙は無効であり、現実に不正行為があつたかどうかは関係がないという趣旨の主張は採用できない。

同第二点について。

所論は、本件開函につき不正行為が行われる余地がなかつた旨の認定は、審理不尽若しくは理由不備の違法があると主張する。しかし第一点において説示したとおり、原審の挙げる証拠と説明とを対照してみると、原審の認定に誤は認められず、原判決に所論のような違法はない。

同第三点について。

所論は原判決が残投票用紙の不足が三一一票あつた事実を認めなかつたことを非難するにすぎない。原判決は、証拠によつて残投票用紙の不足は一二枚である事実を認定しているのであり(甲第一号証の採用できない理由については原判決の委しい説明参照)、この程度の不足があつたからといつてそれだけで選挙無効の原因とならないこともいうをまたない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 垂水克己)

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